プレスリリース 2018年1月30日(火)
「脆弱かつ重量のある古王国時代壁画の移送について」
独立行政法人 国際協力機構(JICA)が実施する「大エジプト博物館合同保存修復プロジェクト(The Grand Egyptian Museum Joint Conservation Project, GEM-JC)」では、1月30日(火)にプロジェクトの対象遺物である壁画2点(5断片)をカイロ・エジプト考古学博物館から大エジプト博物館保存修復センター(Grand Egyptian Museum Conservation Center, GEM-CC)に移送いたしました。
同プロジェクトでは、GEM-CCがエジプトにおける文化財保存修復・研究の中心的機関として遺物の保存修復活動を行います。大エジプト博物館の展示品が適正な状態で保存されることを上位目標に掲げ、大エジプト博物館の開館にとって重要かつ技術移転に適した計72点の遺物を対象に、日本とエジプトが合同で保存修復をおこない技術協力を実施しています。
同プロジェクトは2016年11月に開始され、一般財団法人 日本国際協力センター(JICE)と東京藝術大学がジョイントベンチャー(共同企業体)を結成し、日本の専門家約40名を現地に派遣して実施しています。
今回移送された対象遺物の壁画は、ダハシュール遺跡にて1894年から1895年にDe Morganによって発掘された古王国時代の壁画断片18点のうち5点で、これらは、イニ・スネフェル・イシェテフのマスタバ墓を装飾していたものです。イニ・スネフェル・イシェテフはおそらく第6王朝時代の人物で、彼の名前や称号から、第4王朝時代の故スネフェル王の葬祭活動に関わる役職に就いていたとされています。赤ピラミッド参道東側にその位置が推定されるピラミッド・タウンの地域において、スネフェル王の葬祭活動が王の死後も継続していたことが考えられます。
これらの壁画は、大エジプト博物館の第2フェーズの開館時に展示される予定です。今回、移送された壁画は、重いものでは442kgあり、脆弱でありながら重量があるため、梱包や移送には高度な技術と経験を要します。そのため、移送時には日本通運株式会社の技術指導により、人と遺物の安全を徹底し、遺物への影響が極力少ない移送経路を選定、トラックやフォークリフト等の車両手配まで、詳細かつきめ細やかな梱包・移送の計画策定支援を行いました。
また、移送時には同社が特許を有する移送用防振パレットを使用し、遺物への振動および影響を把握しながら無事に移送を完了いたしました。今後はGEM-CCにて、診断分析のための科学的調査、修復計画の策定、修復処置を実施していきます。古王国時代の壁画が残存する例は稀有であり、この時代の彩色技術を明らかにできることが期待されています。