2010年5月25日
2010年5月16日から19日の4日間にかけて、総合的有害生物管理(Integrated Pest Management)のワークショップが大エジプト博物館保存修復センターにて開催された。講義1日、実習3日という構成で、三浦定俊氏(財団法人文化財虫害研究所理事長)、高鳥浩介氏(NPO法人カビ相談センター理事長)、川越和四氏(イカリ消毒株式会社顧問)に講師をご担当頂いた。
初日には、「IPMによる生物被害の防除」(三浦氏)、「カビによる文化財の被害と対策」(高鳥氏)、「虫による文化財の被害と対策」(川越氏)の3つの講義が行われ、計37名の保存修復家が参加した。IPMという用語を知っている人はわずかに1名であったが、活発に質問が飛び交うなどその関心の高さが窺えた。また高度な知識を備える研修生の存在に驚かされた。
実習には、マイクロバイオロジー専門の科学者1名と木製品修復室(wood lab)、有機物修復室(organic material lab)、ミイラ修復室(human remains lab)のいずれかに所属する保存修復家11名の計12名が参加し、カビの調査および対処方法(カビの採取、標本作り、カビの観察など)、虫の調査および対処方法(視による虫の採取、トラップの設置・回収、虫の観察、殺虫方法など)を実践的に学んだ。
全ワークショップを通じ印象的であったことは、ワークショップに対する研修生の積極的な姿勢である。高鳥氏は研修生が自ら作成した標本を持ち帰ったことを例に挙げ、研修生の意欲の高さが印象的であつたことを述べられていた。自らの現場であるGEM-CCを良いものにしていきたいとする保存修復家の意気込みの表れではないだろうか。
ワークショップでは、少なからぬ虫が見つかり、実際に文化財に影響を及ぼす虫も観察された。有害生物に対する予防的処置となるIPMを実践していくことの重要性が改めて認識されたように思われる。ワークショップの最後にはトラップを再設置し、継続して虫をモニタリングしていく試みをまずは始めた。本ワークショップを契機に、今回参加した研修生を中心としてIPMの考え方がGEM-CC全体に浸透し、実践に移されていくことが望まれる。(末森)